平成17年4月22日判決言渡 
平成16年(ワ)第3909号損害賠償等請求事件
判決

主文

1 被告A、被告B及び被告Cは、原告Dに対し、連帯して、72万3181円及びこれに対する平成15年12月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2 被告A、被告B及び被告Cは、原告Eに対し、連帯して、152万2053円及びこれに対する平成15年12月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

4 訴訟費用は、原告らに生じた費用の6分の1と被告Aに生じた費用を被告Aの負担とし、原告らに生じた費用の6分の1と被告Bに生じた費用を被告Bの負担とし、原告らに生じた費用の6分の1と被告Cに生じた費用を被告Cの負担とし、その余の費用は原告らの負担とする。

5 この判決は、第1、第2項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由


第1 請求の趣旨

1 被告らは、原告Dに対し、連帯して、金480万2497円及びこれに対する平成15年6月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2 被告らは、原告Eに対し、連帯して、金260万7098円及びこれに対する平成15年7月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

本件は、外国法人との間で外国為替証拠金取引を行い損失を被った原告らが、同取引の仲介を行った株式会社の取締役などである被告らに対し、同取引は賭博であり、取引に当たってその危険性等についても説明されておらず違法な取引である、会社の株式を騙されて購入させられたなどと主張して、不法行為ないし取締役に対する損害賠償請求権に基づき、委託証拠金、株式購入代金及び弁護士費用相当額の支払を求めた事案である。

なお、原告らは、当初株式会社F(以下「F社」という。)に対しても同様の請求をしていたが、この請求に係る訴えは、後記1(1)ウのとおり、同社に対する破産廃止決定が確定したことにより終了した。

1 争いのない事実及び証拠によって容易に認定できる前提事実等

(1) 当事者

ア 原告D(以下「原告D」という。)は、昭和49年生まれの男性であり、G大学経営学部経営学科を中退した後、Hに入社し、株式会社Iに転職し、引き続き株式会社Jに転職し、本件当時はF社の営業外務員であった(甲B14、乙5、8、9、弁論の全趣旨)。

イ 原告E(以下「原告E」という。)は、昭和46年生まれの女性で、原告Dの姉であり、本件当時は専業主婦であった(甲B15、弁論の全趣旨)。

ウ F社は、平成13年11月28日に設立された株式会社であり、平成10年4月の外為法改正に伴い、外国為替証拠金取引について投資家の注文を海外のディーラーに取り次ぐ業務を行っていた(乙29)。平成16年11月4日、当庁においてF社に対し破産決定がなされ(平成16年(フ)第20813号)、平成17年2月4日、破産廃止決定がされ、同決定は同年3月23日確定した(甲B28(枝番含む)、29、公知の事実)。

エ 被告A(以下「被告A」という。)は、F社の設立時から、平成16年1月31日に退任する(同年2月12日退任登記)までF社の代表取締役であった(甲B28の3、乙1)。

オ 被告K(以下「被告K」という。)は、同年1月31日にF社の取締役に就任し(同年2月12日就任登記)、同年2月1日に同代表取締役に就任した(同月12日就任登記)(甲B28の3、乙1)。

カ 被告B(以下「被告B」という。)は、F社の設立時から、同年1月31日に退任する(同年2月12日退任登記)までF社の取締役であった(甲B28の3、乙1)。

キ 被告L(以下「被告L」という。)は、平成14年12月30日にF社の取締役を辞任し(平成15年4月9日辞任登記)、平成16年9月11日に同取締役に就任した(同月27日就任登記)(甲B28の3)。

ク 被告C(以下「被告C」という。)は、平成15年3月3日F社の取締役に就任し(同年4月9日就任登記)、平成16年7月31日に辞任する(同年9月27日辞任登記)までF社の取締役であった(甲B28の3、乙1)。

ケ 被告M(以下「被告M」という。)は、同年1月31日F社の取締役に就任し(同年2月12日就任登記)、同年7月31日に同取締役を辞任した(同年9月27日辞任登記)(甲B28の3、乙1)。

(2) 外国為替証拠金取引

外国為替取引とは、外国通貨間若しくは外国通貨と日本国通貨間の売買契約に伴い、当該代金を授受する取引をいい、外国為替証拠金取引とは、投資家が外国為替証拠金取扱業者に対し、一定の証拠金を預け、投資家と取扱業者との間で、証拠金を上回る(F社においては、証拠金額の50倍)取引金額を想定元本として外国為替取引をしたものとし、その後の為替相場の変動による損益について差金決済(反対売買を行うことによって、現物の受け渡しを伴わず損益金の差額を決済する取引)を行うものである(甲B2、乙22、36)。

(3) F社における外国為替証拠金取引(以下「P」という。)

F社において販売されている外国為替証拠金取引の商品名は、「P」といい、投資家は、F社の営業外務員に特定の通貨についての売買取引を申し込み、F社は、仲介業者として、N銀行グループに属する海外の取引業者であるO社(以下「O社」という。)に投資家の注文を取り次ぐのであって、当該注文によって成立する売買代金額や将来の差金決済の内容はそれぞれの時点における為替相場に基づいて決定されるものの、それらの取引や決済の実行に当たっては必ずしも外国為替市場を経由することは予定していないものである(乙22、被告A本人)。

(4) 原告Dは、平成15年6月5日から同年12月17日までの間に、別紙取引一覧表(D)のとおりの各取引を行い(以下「本件A取引」という。)、原告Eは、同年7月22日から同年12月17日までの間に、別紙取引一覧表(E)のとおりの各取引を行い(以下「本件B取引」という。)、原告Dが委託した証拠金と払戻金の差額は336万5906円であり、原告Eが委託した証拠金と払戻金の差額は237万0089円である(甲B9、弁論の全趣旨)。

(5) 平成15年8月28日、原告Dは、F社の株式10株を購入し、被告A名義の口座に100万円を振り込んだ(争いのない事実、甲B9、14、28の1)

2 争点

(1) 原告らとF社との取引が賭博行為として違法であるか否か

(2) 原告らとF社の取引が、適合性原則違反等により、全体として違法であるか否か

(3) F社が原告Dを欺罔して株式を購入させたか否か(原告Dについて)

(4) 争点(1)ないし(3)の違法行為について、被告らが責任を負うか否か

(5) 損害額

3 当事者の主張

(1) 争点(1)(原告らとF社との取引が賭博行為として違法であるか否か)について

(原告らの主張)

ア もともと、商品先物取引を始めとする相場を指標とした差金決済取引は賭博性が強い。F社は、現実には帳簿上だけで「机上の外国為替取引」をし、原告らとの間で「差金決済」をしているだけであり、原告らの取引は、外国為替相場を賭けの対象とする私設賭博であり、違法である。

イ これらの行為は、例えば商品先物取引のように法律で許容され、公設の商品取引所において行われる限りにおいて、違法性が阻却される。違法性が阻却される実質的な根拠は、公設の商品取引所における商品取引には公共的性格と経済的意義が認められるからであり、より具体的には、価格発見機能・先行経済指標の提供機能、価格平準化機能、リスクヘッジの利便を提供する機能などの意義が認められるからである。このような公共的性格と経済的意義があり、公正かつ透明性のある公設市場で行われる限り、それは単なる賭博から脱し、賭博規制を排除して、違法性が阻却されることになるのである。

ウ これに対し、F社が行っている「外国為替証拠金取引」なるものは、次に述べる通り、公共的性格も経済的意義もなく、公正とか透明性という言葉とはおよそ無縁で、刑法が禁止した賭博行為そのものである。すなわち、本件に即していえば、第1に、本件の取引はF社と投資家との間接相対取引である。したがって、F社の提携先であるO社と投資家は売買差益を取り合い、一方が利益を得れば他方はその損失を負担することにより、両者間の利害は逆となるのである。
第2に、本件の取引は、O社と投資家らとの間の閉鎖市場での差金取引である。O社がインターバンク市場に現実に参加できるはずもなく、単にこのレートを基準として、個々の投資家と金銭のやり取り、すなわち「呑み行為」を行っているにすぎない。
第3に、F社が閉鎖市場に引き込んでいる参加者は、全て一般消費者であり、外国為替に関するリスクヘッジの必要など皆無の人間ばかりである。したがって、また、交換取引を行った外貨に相当する円を支払うこともなく、本来的な意味での外国為替取引にはあたらない。このような取引に、経済的な意義は全く認められない。
第4に、F社は、銀行間取引を真似て、「スワップポイント」「スワップ金利」と称する金銭のやりとりを行っているが、現実に売買を行っていないにもかかわらず、2国間の金利差をやりとりすることに合理的な根拠は認められない。
第5に、F社は、「委託証拠金」と称して投資家から多額の金員の預託を受けているが、投資家とO社との相対取引において、投資家のみが保証金の預託を求められる根拠は認められない。また、F社は、保有資産についても預り金の保管方法等についても規制を受けないため、必然的に、投資家は返還不能のリスクに晒されることとなる。このような証拠金の授受も、不透明かつ不公正である。以上のような取引には、公共的性格や経済的意義があるとは到底考えられず、何らの公正さも透明性も確保されておらず、法的に評価すれば、単に為替相場の変動という偶然の事情を指標とする賭博行為にほかならない。

(被告らの主張)

ア 外国為替証拠金取引は、賭博ではなく通貨の売買取引である。証拠金取引はそもそも少ない資金で大きな想定取引額を得るためのものであって、決済は反対売買による決済となるのが大原則である。つまり1米ドル=100円のときに証拠金100円で10米ドルを買った場合、10米ドルの交付を受けるのではなく(100円と10米ドルは等価値でないため、そもそも10米ドルの交付は受けられない。あくまで証拠金と想定取引金額という関係)、例えば1米ドル=110円となった後に10米ドルを売却して(これを反対売買という)決済を行い(当初の10米ドル=1000円と、その後の10米ドル=1100円の差額を授受する)、100円を手に入れる(当初の投資金額100円に対して100円の儲け)となるものである。この場合、買った10米ドルの受取りではなく、反対売買で決済できるのが証拠金取引の特徴なのである。この場合、買った10米ドルが投資家と外国為替業者の間を現実に行き来することはないが、それ自体は全く問題ないし、株式の信用取引なども全く同様の仕組みである。原告らは繰り返し「買ったことにする」などという表現を用いているが、これも単に反対売買決済が予定されていることを異なる言い回しで表現したにすぎない。

イ 金融先物取引法の一部を改正する法律が平成16年12月1日に国会で成立し、同年12月8日に公布され、外国為替証拠金取引を営む業者は登録制とされることとなった(乙39、乙56)。このことは、外国為替証拠金取引というもの自体の合理性を認めた上で、個別具体的な行為を規制しようという方向性と考えられ、日本における外国為替証拠金取引一般が違法で無効な取引であるとする原告らの主張は、明らかにこの立法と整合しないものである。また、平成16年4月1日から、外国為替証拠金取引は金融商品販売法の対象となっている。

ウ 外国為替証拠金取引が「相対取引」であることは認めるが、相対取引であるからといって、常に投資家の利益を無視し自己にのみ有利な取引を行うことは困難であり、相対取引だからといって、呑み行為や恣意的な価格設定による違法行為となるものではない(乙15の23頁イ)。本件で、原告Dは、外国為替証拠金取引により一定の利益をあげているが、恣意的な価格設定が可能であるならば、取引相手方であるO社は、わざわざ自分が損をしてまで原告Dに利益を与えるはずがない。このことからしても、F社の仲介する外国為替証拠金取引が極めて正当な取引であることは明らかである。

(2) 争点(2)(原告らとF社の取引が、適合性原則違反等により、全体として違法であるか否か)

(原告らの主張)

ア 適合性原則違反についてリスクのある金融商品を販売する場合、知識・経験・資産等からして適合性を欠く投資家に対する勧誘は、それが法律上規制されているか否かに関わらず、違法である。これを適合性の原則という。外国為替は、極めて短期間に証拠金以上の損失が発生するおそれがあり、そのハイリスク性は、先物取引を含めて現在販売されている金融商品のなかで、最も危険性が高い取引である。したがって、本件A取引及び本件B取引にも、その内容からして当然に適合性の原則が要求される。原告らは、それまでの知識・経験等からして、いずれも外国為替証拠金取引という極めて投機性の強い取引を行う適合性を欠く。したがって、これら両名を、外国為替証拠金取引に誘い込んだ行為は、それ自体が違法である。

イ 説明義務違反・断定的判断の提供外国為替証拠金取引のようなハイリスクな取引は、信義則上、取引開始にあたり、その仕組み・危険性を十分に説明する義務がある。特に、外国為替証拠金取引特有の予測の困難性、予測の要継続性、スワップ金利の異常な高利性、原告らが行う外国為替証拠金取引とは、F社の提携先のO社との相対取引であること、すなわち提携先との「サシの勝負」という重要な取引の仕組みを説明する義務がある。しかるに、F社はその研修において、これらの点を一切説明せず、外貨建て預金のようなものという説明をする一方で、断定的判断を提供し、外国為替証拠金取引に誘い込んだものである。また、F社は、原告Eに対し、何ら外国為替証拠金取引の仕組み・ハイリスク性を説明していない。F社は、責任ある者が直接原告Eに何ら説明してないし、原告Dにも、親族等の勧誘に当たり、外国為替証拠金取引の仕組み・ハイリスク性を十分説明するよう指示をしていない。原告D自身が、全く取引経験がなく、外国為替証拠金取引の仕組み・ハイリスク性を殆ど理解していない。したがって、原告Eに対し説明できるわけがない。にもかかわらず、このような人物に、勧誘させること自体が、問題である。

ウ 実質一任取引について外国為替証拠金取引は、「相場を張る」行為であるから、当然、投資家が、自らの相場観に基づいて取引をする必要があり、業者が一任を受けて取引をすることは禁止される。しかるに、原告らの取引は、利益相反関係に立つF社に一任した取引で、著しく不公正な取引である。原告EとF社の取引も、原告Eの指示に基づくものではない。原告Dは、F社の従業員として原告Eを勧誘し、原告E名義の口座を作って、原告Eの取引を行った。原告Eは、自分がどういう取引を行ったのかさえ認識していない。

エ 両建の違法性外国為替証拠金取引では、売建と買建を同時に行う両建をしても、日々スワップ金利が発生するのであるから、何らリスクヘッジにならない。すなわち、円売りの場合には、プラスの金利を得ることができ、円買の場合には、逆にスワップ金利を払わなければならない。両建をすると、投資家は、スワップ金利を払うと同時に、スワップ金利を得ることになる。両方の金利が同一ならば、差引ゼロになるが、円売りの場合のスワップ金利よりも、円買の場合のスワップ金利の方が、はるかに高率であるから、両建をしても、このスワップ金利差が、日々、投資家に損失として発生することになる。つまり、外国為替証拠金取引では、両建は、利益を追求できず損失のみが日々発生する取引であって、全く合理性が見いだせない取引である。にもかかわらず、F社が、原告D及び原告Eに対し、リスクへッジと称して両建を繰り返させたのは、違法である。

オ 求人商法F社は、外国為替証拠金取引に投資家を誘い込むために、ヤフーに転職情報を出して、「就職」という言葉と破格の好条件で原告Dをおびき出し、研修と称してセミナーで外国為替のリターン性ばかりを強調し、職業訓練と称して外国為替証拠金取引に誘い込むという極めて悪質な勧誘方法をとったもので、勧誘そのものが詐欺行為の重要な一部をなす。原告Eそのものは、直接求人商法の勧誘を受けてはいないが、原告Dは、被告らの甘言に騙され原告Eに勧誘したもので、全体的に見れば、F社は、求人商法を駆使し、原告Dを通じ、間接的に、原告Eを勧誘したものである。

(被告らの主張)

ア 原告Dについては、否認又は争う。26歳といっても海外留学を経験している点で、外国為替に対する馴れは通常の人達よりも遥かに高いといえる。また原告Dは、IやJという著名な会社のグループ会社に約2年も在籍したことがある(原告Dの履歴書(乙9))のであるから、社会経験がほとんどないとは到底いえない。

イ F社は、すべての使用人に対して、投資家への説明を丁寧かつ十分に行うよう入念に指導していた。原告Eに関する原告らの主張は、原告DがF社による指導を遵守しなかったことを棚にあげた上でのものであり、主張自体失当である。

ウ 一任売買については、基本的性格としては合理的なものであり、公法上禁止されているといっても、付随しがちな弊害を可及的に防止するための間接的な手段であって、その違反に罰則も用意されていないから、私法上、直ちに無効と解することはできず、違法ではない。

エ 売建と買建を同時に建玉する両建が行われた事実は認める。計算上の損失が実現するのを当面回避することができることからすれば、具体的相場状況や投資家の資産状態に鑑みて両建が常に合理性を有しないとまではいえない。また証券取引法が両建を禁止していないのも、そのような一定の合理性を認めたためであると考えられる。なお、F社が原告らに対して、両建を勧めた事実はまったくなく、むしろ、両建の意義と不利益な面については説明していた。原告らは自ら納得した上で両建を行っていたものである。この点については、原告Dが平成15年10月3日に99万6570円を、原告Eが同年10月14日に10万円をそれぞれ追加入金している点が重要である。その時点では原告らは損失を生じていたはずであるのに、追加入金をしたということは、少なくとも、外国為替証拠金取引の内容について納得した上で、自らの意思により取引を継続したことの証左にほかならない。

オ 本件においては、F社が原告Dを「勧誘した」ことを証明する書面は、原告D本人の主張を除き一切提出されていない。そもそも、従業員(F社においては営業委託の形を取っており「FC」と呼ばれている。)として採用した者が自ら商品の購入を申し込んできた場面は、勧誘の場面とは明らかに異なるものである。特に、本件は、原告Dの応募から取引が開始されるまでに約1ヶ月の期間があった事例であり、被告が原告Dを「勧誘した」と主張するには無理があることは明らかである。

(3) 争点(3)(F社が原告Dを欺罔して株式を購入させたか否か)について

(原告Dの主張)

原告Dは、F社から、詐欺的商法であることを秘し、原告Dが、取引上の損失を出し最終的にはF社との就業関係を打ち切ることを認識しながら、今後も継続的な就業関係が続くように誤信させ、かつ、最終的には利益など出ないことを知りながら、「歩合が増える」「永い目で見れば得だ」等といって、原告Dを欺罔して、くず同然の株式を買わせ、株式代金名下の金100万円を騙取したものである。

(被告らの主張)

否認ないし争う。原告Dは自ら株式の購入を望んだものである。

(4) 争点(4)(争点(1)ないし(3)の違法行為について、被告らが責任を負うか否か)

(原告らの主張)

F社は、取締役・従業員全員が、共謀し、一体となって、継続的・組織的な違法行為を繰り返していた集団である。したがって、この集団に属する者は、全員が共謀者として、民法709条に基づき、F社の集団的組織的違法行為全部について責任を負うべきである。ましてや、原告らが取引をした当時、たまたま取締役であったかどうかは、形式的な問題で、関係ない。被告らは、最初から最後まで、継続的な不法行為を反復しているこの組織の一員であり、オーナーの指示に従って、取締役登記をしたり、しなかったりしているにすぎないからである。

(被告A、被告B及び被告Cの主張)

争う。

(被告Kの主張)

被告KがF社の取締役に就任したのは平成16年1月31日であり、代表取締役に就任したのは同年2月1日である。被告Kは原告Dの取引に何ら関与しておらず、原告らの損失について責任を問われるべき立場にない。

(被告Lの主張)

被告Lは平成14年12月30日をもってF社の取締役を辞任しており、原告らの取引当時、被告LはF社の営業外務員であったにすぎない。

(被告Mの主張)

被告MがF社の取締役に就任したのは平成16年1月31日である。被告Mは原告らの取引に何ら関与しておらず、原告らの損失について責任を問われるべき立場にない。

(5) 損害額

(原告らの主張)

原告DはF社に本件A取引に基づく証拠金として合計金336万5906円を交付したが、これは、被告らの不法行為によって生じた原告の損害である。また、原告Dは、株式代金名下に、金100万円を騙取された。これも、上記不法行為の一環として、原告の受けた損害である。また原告Eは、本件B取引に基づく証拠金として合計金237万0089円を交付したが、これは、被告らの不法行為によって生じた原告Eの損害である。原告らは、被告らがその損害を任意に賠償しないので、これを原告ら代理人に委任し、かつ、東京弁護士会所定の弁護士費用を支払うことを約したが、このうち、原告Dについては金43万6591円が、原告Eについては金23万7009円が、本件違法行為と相当因果関係のある損害である。

(被告らの主張)

争う。

第3 当裁判所の判断1

争点(1)(原告らとF社との取引が賭博行為として違法であるか否か)について

(1) 下記の証拠によれば、外国為替証拠金取引及びPについて、以下の事実が認められる。

ア 投資家は、取引口座を開設した後、初回の最低預託証拠金として2万ドル(又は円貨相当額。当時は100万円)をF社が指定する銀行口座に振り込んで支払う。投資家は、取引注文について自己独自の判断によるか、F社担当者との相談によるか、自己の指名する代理人に依頼するという3通りの方法から選択して取引を開始する(乙22)。

イ 投資家による取引の注文、注文の訂正、注文の取消し等はF社を通じて行う。投資家は、通貨の区別、注文の区別(売り又は買い及び新規か決済の指示)、売買注文の数量、指値又は成行等の区別、指値の場合、その値段及び売買注文の有効制限を明示して、F社に取引の注文を出す(乙22)。

ウ F社が呈示する各通貨の売値又は買値は、東京外国為替市場におけるインターバンクレートを参考にしたものである(甲B4)。

エ 投資家は、取引から生じるすべての債務を担保するため、F社に取引証拠金、取引臨時増証拠金を預託する。F社は、投資家から受け取った証拠金を、O社の指図に応じてO社に送金する(乙47ないし49、52、54、被告A本人)。

オ 当日取引は、取引注文を1日(午前9時から翌朝4時(冬時間5時))で決済するもので、売買単位は米ドルの場合10万ドル、(但し新規は最低2枚から)、取引証拠金は1000米ドル、手数料は200米ドルである。継続取引は、取引注文を2日以上継続する取引で、売買単位は米ドルの場合10万ドル(但し新規は最低2枚から)、取引証拠金は2000米ドル、手数料は200米ドルで、決済期限はない。いずれの場合も、取引証拠金は、予め預託されている預託証拠金が充当される(乙22)。

カ 円に比べて高金利の通貨の買い注文を行うと、決済日まで毎日スワップ金利(取引する2通貨間の金利差)が支払われ、逆にそのような通貨の売り注文を行うと決済日まで毎日スワップ金利が掛かることとなり、このスワップ金利の清算は、毎日行われる(別紙取引経過一覧表の「金利」欄)(乙22)。

キ 投資家の未決済ポジションに対しては、毎日値洗い計算(日々の価格変動により発生する投資家の建玉の「計算上の差損益」について、毎日洗い出し、これによって生じる差損益金につき、益計算であればその益計算分が、また損計算であればその損計算分がスワップ金利と共に取引口座内において日々清算される。)が行われ、これはニューヨーク外国為替市場のインターバンクレート終値(O社調べ)を用いて行う。値洗い計算によって発生した損金が取引証拠金の40%を上回った場合には、その分が預託証拠金によって清算され、そうしたことによって証拠金残額が預託証拠金の60%を下回った場合は、追加証拠金の支払いが求められる。また、損金が預託証拠金の80%を上回った場合、F社は投資家に事前に通知・通告することなく投資家の未決済ポジションの全部又は一部にヘッジをかけることができ、その際に発生した追加証拠金の入金がない場合には、当該投資家の計算で取引を決済することもできる(甲B2)。

ク F社とO社との間の業務はインターネットを用いたコンピューター画面にて行っており、取引値段、投資家情報等は全てディーラーのコンピューターにおいて一元管理されている。F社は、投資家(又は担当者)から取引希望通貨の値段を聞いた後、O社に取引値段を聞く。O社は取引値段を提示し、F社は投資家(又は担当者)に取引値段を伝える。投資家(又は担当者)は、F社に対し、売り又は買いと数量を注文し(取引希望価格でない場合はアウトと伝える)、F社はこの注文を入力し、O社からはこの注文の成立、不成立が回答される。F社は、取引成立の場合、取引口座番号・新規・仕切り(決済)の取引情報をO社に送信する。F社は、投資家(又は担当者)から提出された注文伝票と成立取引の内容確認を行い、取引番号、タイムレコーダーによる日時の刻印を行った後、確認サインを行い、投資家(又は担当者)へ返却する(乙22、37、38)。

ケ Pは、以上のように外国通貨をめぐる取引の形態を取っているものの、投資家が当該通貨の現物を取得することは全く予定されていないし、O社も、投資家の注文を外国為替市場に反映させることは義務づけられてはおらず、投資家からF社を通じて受け取った証拠金は、自己の判断で自由に運用しうる立場にある。

(2) Pが賭博に該当するか賭博とは、当事者において予見しえない事実によって財物や財産上の利益の得喪を争い勝敗を決する行為であると解される。そこで検討するのに、前記第2の1(2)(3)及び第3の1(1)に認定したところによれば、Pは、その法的性質こそ必ずしも明らかではないものの、注文をした時点以降の為替レートの変動に伴って時々刻々当事者間の権利関係が変動し、最終的には当初の為替レートと決済を行った時点での為替レートを比較して差金決済を行うものであり、しかも当該取引は外国為替市場に反映することを必ずしも予定していないのであるから、為替レートの変動という当該取引とは無関係の偶然の事情によって、当事者間の権利関係が変動するものである。その上、契約条項の上では通貨の売買と銘打っているものの、取引対象は証拠金の50倍もの想定元本であり、元本の授受は予定されておらず、想定元本の上での差金の授受のみによって決済を行うため、相当高額の損益が短期間のうちに生ずる可能性の高く、射倖性の高いものであることが認められる。このようにPは、為替レートの変動という当事者が関与せず、しかも予見し得ない事情によって、損益金の金額が決定されるものであるから、賭博の構成要件に該当するものであり、このような取引形態は、公に認められた取引所を通じて行うもの以外は原則として公序良俗に反する違法な行為といわざるを得ない。

(3) 被告らは、外国為替証拠金取引は通貨の売買取引であり、証拠金取引は少ない資金で大きな額の取引を行うためのものであると主張する。しかしながら、Pにおいては、上記のとおり、外国通貨自体の授受はおよそ予定されておらず、決済方法は反対売買のみによるものとされているのであるから、通常の売買契約又はその予約と同様に解することはできない。被告らは、金融先物取引法の一部を改正する法律により、外国為替証拠金取引を営む業者は登録制とされることとなった(乙39、56)ことは、外国為替証拠金取引というもの自体の合理性を認めたものであると主張する。しかしながら、同法は平成16年12月8日に公布され、現時点においても施行されていないことに加え、同法は登録された業者による外国為替証拠金取引について定めたものにすぎないのであるから、F社の取引を正当化するものではない。むしろ、取引所外の相場に準拠した差金授受を目的とする行為を取引所外で行うことを原則として禁じた証券取引法第201条、商品取引所法第145条等の規定の存在に鑑みれば、我が国においては、法律によって特に取引を行うことが許された当事者による差金決済についてのみ、業務行為として、賭博としての違法性が阻却されるという法体系を採用しているものと解すべきであり、金融先物取引法の改正がされて特定の業者による外国為替証拠金取引が可能になったことは、むしろ同法の改正前には、外国為替証拠金取引は違法行為として想定され、いかなる業者も行えなかったことを示すものであるということができる。また被告らは、平成16年4月1日から、外国為替証拠金取引は金融商品販売法の対象となっていると主張するが、同法自体が外国為替証拠金取引についての規定を置いているものではなく、同法施行令の改正によって、金融等デリバディブ取引をも同法の適用の対象とすることとされたものにすぎず、外国為替証拠金取引のすべてが同法の適用対象となったか否かも明らかでないから、この主張は前提を欠く上、単なる政令の制定によって同取引が適法化されるものでもない。

(4) そして、本件全証拠によっても、外国為替証拠金取引が一般に社会通念上合理的な経済活動であると認めるに足りる証拠や原告らが同取引によって外国為替相場の変動によるリスクを回避する必要に迫られていたと認めるに足りる証拠はなく、むしろ、前記第2の1(2)及び第3の1(1)オに認定したとおり、機関投資家でない個人が、100万円もの初回預託証拠金を支払い、倍率50倍の証拠金取引によって為替変動リスクのヘッジを行う合理的必要性は見いだし難いといわざるをえない。

(5) したがって、その他原告が主張する点について検討するまでもなく、本件A取引及び本件B取引は賭博行為として違法である。

2 争点(2)(原告らとF社の取引が、適合性原則違反等により、全体として違法であるか否か

(1) 適合性原則違反、説明義務違反及び断定的判断の提供について

ア 証拠によれば、原告DがF社と取引を行った経緯について、以下の事実が認められる。

(ア) F社は、インターネットのウェブサイト上で、求人募集を行っていた(甲B1、23)。原告Dは、平成15年5月9日、F社による求人募集に対し、金融での外国為替に関するコンサルタント営業を希望職種として電子メールを送信して応募した(乙5、8)。同月13日、F社は原告Dの採用面接を実施し、その際に顔写真入りの履歴書(乙9)を渡しているところ、同履歴書には志望動機として「常に固定された数字ではなく、政治的・経済的要因で生き物のように刻刻と変化していく外国為替業務に昔から興味があり、経験・知識がないと言う事で諦めておりました。」と記載している(甲B14)。

(イ) F社は、同月16日、原告Dを含む就職希望者に対し、F社の外国為替証拠金取引約款(甲B4)、説明書(乙21)及び取引ガイド(乙22)等を示して、営業外務員としての研修を行った(甲B2ないし4、14、乙6、19ないし25、27、29)。F社の外国為替証拠金取引約款(甲B4)及び取引ガイド(乙22)には、外国為替証拠金取引のリスクについてと題して、外国為替証拠金取引は、元本及び利益が保証されているものではないこと、外国為替証拠金取引は、総取引金額に比較して少額の証拠金で取引を行うため、多額の利益が得られる反面、多額の損失を被る危険性を伴う取引であり、その損失額は、預託した証拠金以上の損失となることもあること、為替相場の変動により計算上の損失が一定額を超えた場合、取引を続けるためには追加の証拠金を預託しなければならない場合もあり、証拠金を追加に預託しても、預託した証拠金以上の損失となる場合があること、外国為替証拠金は、値幅制限がなく、為替相場の状況によっては、「ストップロス注文(逆指値注文)」が指示した価格から大きく乖離した価格で約定されることもあり、必ずしも損失を予想額に止められるとは限らないこと、為替相場の状況により、本証拠金額の変更や臨時増証拠金の徴収を行うことがあり、その結果、預かり証拠金に不足が生じた場合、さらに証拠金の預託が必要となることなどが記載されている。

(ウ) 同月23日、原告Dは「業務委託契約書」に署名押印して、F社と業務委託契約(期間は同月23日から同年12月31日まで、ノルマ・拘束時間なし、社会保険なし、交通費なし)を締結した(甲B3、14、乙30、32、35)。同年6月15日、原告Dは「雇用及び業務委託契約に伴う覚書」(乙32)と題する書面に署名した。同書面には、原告Dは下記の指導行為を厳守することとするとの記載があり、法令による禁止行為として、顧客に対して、必ず利益が得られると誤解されるような断定的判断を提供して勧誘すること、取引の注文を行う際に、顧客から指示を受けないで取引の注文を行うこと等、自主規制規則による禁止行為として、知識や経験、財産の状況からみて証拠金取引を行うことが適当でないと判断される者を勧誘し、その者から取引の委託を受けること、顧客に対して、「証拠金取引のしくみ」「取引の投機的本質及び預託資金をはるかに超える金額の取引を行っている事実」及び「証拠金制度の概要」などについて「取引ガイド」に基づく説明をしないで勧誘し取引の委託等を引き受けること等が挙げられている。

(エ) 同月5日、原告Dは、F社との間で、自らが当事者となって、外国為替証拠金取引を行うことを承諾し、同日、母親から借りた250万円のうち235万3000円をF社名義の銀行口座に入金した(甲B5、14)。

(オ) 原告Dは、F社に対し、コミッション料(業務委託料)として、平成15年6月から同年12月までの間に、業績に応じた金額として合計84万7535円の支払を求め、F社はこれを支払った(乙11ないし14)。

イ 前記第2の1ア(ア)及び第3の2ア(ア)に認定したところによれば、原告D は、G大学経営学部経営学科を中退するという経済に関連する経歴を有し、F社の求人募集に対し、外国為替業務に関心を有していることを表明して外国為替に関するコンサルタント営業を希望していたものであって、かかる原告Dが外国為替証拠金取引の適合性を欠くとは到底認められない。そして、証拠(乙29、31、被告A本人)及び前記ア(イ)に認定した事実を総合すれば、原告Dは、F社での研修において、F社が投資家とO社の取引を仲介する業者であること、外国為替証拠金取引は相対取引であり、少ない証拠金で大きな資産を運用でき、外貨預金と違いハイリスク・ハイリターンの商品であることなどについて十分な説明を受けていたものと認められるし、原告Dもこれを理解しながら、自ら主体的に本件A取引を行いつつ業務委託料を得ていたものというべきであり、この点に反する原告Dの陳述(甲B14、16、17、20、32、原告D本人)はいずれも採用できない。原告Dは、予測の困難性、予測の要継続性、スワップ金利の異常な高利性についても説明すべきであると主張するが、原告Dの履歴書(乙9)の志望動機の記載によれば、原告Dは、F社における研修を経るまでもなく、外国為替市場の予測が困難であり継続的な予測が必要であることについて十分認識していたことは明らかである。また、スワップ金利についても、証拠(乙29、31、被告A本人)によれば、F社は研修においてスワップ金利が発生する仕組みについて説明したことが認められるし、そもそも原告Dはその当事者尋問において、スワップ金利が高金利であり、これが本件A取引を開始した目的であると自ら供述している(原告D本人)ことなどからすると、原告Dはこれらの点について十分理解しながら、本件A取引を行っていたといわざるをえない。

ウ 証拠によれば、原告EがF社と取引を行った経緯について、以下の事実が認められる。

(ア) 原告Eは、高校を卒業後すぐに結婚し、本件に至るまで専業主婦であり、銀行の口座を開設したこともなく、投資・投機の類は一切行ったことがない(甲B15)。

(イ) 原告Eは、原告Dからの電話を受け、今働いている会社ですごくいい金融商品があり、プラスとマイナスを繰り返してトータルで最後にはプラスになるとの説明を受け、「何のことか分からないけど、あんたが言うんだから間違いないでしょう」といい、外国為替証拠金取引を行うことを承諾した。平成15年7月21日、原告Eは、原告Dに対し、F社との取引に関する代理権を授与し、同日、「P 外国為替証拠金取引 取引ガイド」「外国為替証拠金取引約款」の交付を受け、F社との間で、外国為替証拠金取引を行うことを承諾した。

(ウ) 同日、原告Dは、原告Eの承諾を得て、母親から借りた237万円で、原告Eの取引口座を作成した(甲B8、14、15、乙3、28、原告D本人)。

エ 前記ウ(ア)(ウ)に認定したところによれば、原告Eは専業主婦であって金融に関する専門的知識を有しているとも認められず、外国為替証拠金取引のようなハイリスク・ハイリターンの取引経験はなく、資金についても母親から借りたものであって、外国為替証拠金取引の適合性があったかについては問題があるといわざるを得ない。そして、前記ウ(イ)によれば、原告Dは、原告Eが何のことか分からないと述べているにもかかわらず、F社の営業外務員として、外国為替証拠金取引の危険性等について特段の説明を行わなかったばかりか、最後にはプラスになるなどと断定的判断を提供したものであると認められ、他にこれを覆す証拠は存在しない。
したがって、原告Dの原告Eに対する説明は不十分であるといわざるを得ず、原告DはF社の営業外務員として、原告Eに対する説明を怠ったものと認められる。

(2) 実質一任取引について原告らは、本件A取引及び本件B取引は、利益相反関係に立つF社に一任した取引で、著しく不公正な取引であると主張する。
そこで検討するのに、前記第2の1(3)に認定したところによれば、F社は投資家とO社との仲介業者であって投資家と利益相反関係に立つものではないから、原告らの主張はすでにその前提を欠くといわざるを得ない。さらに、一任取引は、基本的には投資家の利益に資するものであって、担当者が受託者としての地位を濫用し、投資家を犠牲にして手数料を稼ぐ目的で頻回の取引を行ったなどの事情がない限り、一任取引を行ったこと自体が投資家に対する不法行為とはならないと解すべきである。そして、原告Dは、自己の取引について、もっぱら被告Lのアドバイスに基づいて本件A取引を行ったと陳述するが(甲B14、16、17、原告D本人)、この陳述は前記(1)アイに認定した経緯に照らし採用することはできず、原告DについてはそもそもF社による一任取引がされたと認めることはできず、むしろ被告Lが供述するように(丙1)、原告Dは、原告Dよりも営業外務員としての経験のある被告Lの助言を求め、これを受けて自らの判断で取引を行っていたものと認められる。また、原告Eについて一任取引を行っていたのは原告Dであるところ、原告Dが原告Eの委託の趣旨に反する行為を行ったと認めるに足りる証拠はないし、原告Dからもそのような趣旨の陳述はなされていない。したがって、この点に関する原告らの主張は理由がない。

(3) 両建について原告らは、外国為替証拠金取引では、両建は全く合理性が見いだせない取引であるにもかかわらず、F社が、原告D及び原告Eに対し、リスクへッジと称して両建を繰り返させたのは違法であると主張する。しかしながら、両建は計算上の損失が実現するのを当面回避することができることからすれば、具体的相場状況や投資家の資産状態によっては両建が合理性を有する場合もあるから、両建がされた事実のみでこれを違法であるとすることはできず、担当者が投資家を犠牲にして手数料を稼ぐ目的で、ことさらに両建を勧めたことなどの事情が認められた場合には、投資家に対する善管注意義務に反するものとして違法となると解すべきである。
そうすると、本件においては、原告Dについては前記(1)アで認定したとおり、自ら主体的に本件A取引を行っていたものであるからこれを違法とすることはできないし、原告Eについては、担当者である原告Dは両建について何ら言及しておらず、他に前記事情を認めるに足りる的確な証拠もない。したがって、本件において両建が行われたことを違法と解することはできず、この点に関する原告らの主張は理由がない。

(4) 求人商法

ア 原告Dは、F社は原告Dに対し、職業訓練と称して外国為替証拠金取引に誘い込むという極めて悪質な勧誘方法をとったものであると主張するが、証拠(甲B1、乙4)によれば、F社によるウェブサイト上の求人広告は、その内容からして、応募者を外国為替証拠金取引に誘い込むものとは認められない。むしろ、原告Dと同時期に研修を受け、F社と業務委託契約を行ったQは、自分の口座を当初開設しておらず、F社から開設するよう指示を受けたこともないことが認められる(乙34)。この点に加え、前記(1)アに認定したところを総合すれば、原告Dは、F社において約1ヶ月間営業外務員として稼働し、外国為替証拠金取引について理解を深めた後、自分でも外国為替証拠金取引を行って利益を得るために、自らの判断で外国為替証拠金取引を行っていたものであると認められる。したがって、この点に関する原告Dの主張は理由がない。

イ 原告Eは、F社は求人商法を駆使して間接的に原告Eを勧誘したと主張するが、原告EはF社の求人広告に応じたものではなく、原告Dの勧めに従って取引を開始したものであるから、この点に関する原告Eの主張も理由がない。

3 争点(3)(F社が原告Dを欺罔して株式を購入させたか否か)について

原告Dは、F社は、原告Dが取引上の損失を出し最終的にはF社との就業関係を打ち切ることを認識しながら、原告Dを欺罔してF社の株式を買わせたと主張する。
しかし、F社が原告Dを欺罔したと認めるに足りる的確な証拠はなく、むしろ、前記2(1)アに認定した経緯に照らせば、原告Dは、F社の営業外務員としての歩合が増えることを期待して、自らの意思で、前記第2の1(5)のとおりF社の株式を購入したことが認められる。したがって、この点に関する原告Dの主張は理由がない。

4 争点(4)(被告らの責任の有無)

(1) 取締役の責任について前記第2の1(1)エないしケによれば、本件A取引及び本件B取引の時点において、被告A、被告B及び被告CがF社の取締役であったことが認められる。そうすると、前記1(5)に認定説示したとおり、本件A取引及び本件B取引は違法であると解されるので、この点についてF社の取締役が商法266条の3第1項に基づき責任を負うか検討する。
前記1(2)ないし(5)に認定説示したとおり、本件における外国為替証拠金取引は賭博行為であってその金融商品としての適格性自体が認められない。そうすると、その余の違法行為について判断するまでもなく、かかる金融商品を販売する行為それ自体が公序良俗に反する違法な行為となり、これを取締役としてF社の業として行っていた被告A、被告B及び被告Cは、これによって損失を被った第三者に対し、連帯して、当然に商法266条の3第1項の責任を負うと解すべきである。
なお、原告Eの取引に関しては、前記2(1)エのとおり、原告Dの勧誘につき、適合性原則違反、断定的判断の提供及び説明義務違反の違法行為があったと認められるところ、このような原告Dの行為に対する上記被告らの任務懈怠の有無も問題とはなるものの、証拠(乙29、31、被告A本人)及び前記2(1)アに認定したところによれば、F社は、原告Dに対し、研修において、資産が少ない人等外国為替証拠金取引を行うことが適当でないと判断される顧客を勧誘しないこと、勧誘するに当たっては「雇用及び業務委託契約に伴う覚書(乙32)」に記載された、説明義務違反、断定的判断の提供等の禁止行為を行わないよう指導していたことが認められる。その上、原告Eは原告Dの姉であって、そのような姉弟間の行為についてまで取締役として指導監督すべき注意義務があったとは考え難いところであるから、被告A、被告B及び被告Cには、原告Dによる違法行為について、取締役としての任務懈怠があったと認めることはできない。

(2) その他の被告らの責任についてア 前記第2の1(1)エないしケによれば、本件A取引及び本件B取引の時点において、被告K、被告L及び被告MはF社の取締役ではなかったことが認められるから、同被告らには上記商法上の責任はないといわざるを得ない。

イ もっとも原告らは、本件当時取締役ではなかった被告K、被告L及び被告Mも、本件の組織的違法行為に深く関わった者らであり、原告らに対し民法709条の不法行為責任を負うと主張する。しかしながら、被告K、被告M及び被告LがF社の意思形成過程に関与していたことを認めるに足りる的確な証拠は何ら存在しないのであるから、F社によるPが賭博として違法行為であるとしても、この点について被告K、被告M及び被告Lが責任を負うべき理由は見いだし難い。また、原告Dの本件A取引については、それが賭博行為であること以外の違法事由が認められないことはこれまでに認定説示したとおりであるし、原告Eに対する適合性原則違反、断定的判断の提供及び説明義務違反についても、原告Eに対し直接違法行為を行った者が原告Dであることは前記2(1)エに認定説示したとおりであって、これについて被告K、被告L及び被告Mらが関与していたことを認めるに足りる証拠はない。

ウ したがって、被告K、被告M及び被告Lに関する原告らの主張は理由がない。

5 争点(5)(損害額)

前記第2の1(4)に認定した事実によれば、原告Dが委託した証拠金と払戻金の差額は336万5906円であり、原告Eが委託した証拠金と払戻金の差額は237万0089円であるところ、原告D及び原告Eは、F社との取引によってそれぞれ同額の損害を被ったと認められる。

6 職権による過失相殺

(1) 前記2(1)アに認定したところを総合すれば、原告Dは、F社の求人募集に応じて自らF社の営業外務員として活動していたこと、F社による研修において、外国為替証拠金取引の仕組み及び危険性等について説明を受けていたこと、外国為替証拠金取引による利益に加え、外務員としての手数料収入をも得る目的で自ら積極的に本件A取引を行っていたことなどの事情が認められるところ、これらの事情を考慮すれば、原告Dの側にも過失があったというべきであり、その過失割合は8割と判断するべきである。

(2) 原告Eは、前記2(1)エに認定説示したように、原告Dに勧められるまま本件B取引を行ったものではあるが、通常の預貯金以外の金融商品に相当の危険が伴うことは常識的に理解できることであり、そのような取引を十分に理解しないまま行ったこと自体に過失があったといわざるを得ないし、原告Eが取引を行ったのは結局弟である原告Dを信頼したことに尽きるのであるから、その損害のすべてをF社取締役に負わせることは公平を失するといわざるを得ない。これらの事情を考慮すると、原告Eの過失割合を4割として過失相殺をするのが相当である。

7 結論

(1) 以上によれば、原告Dについては前記5の損害額の2割に相当する67万3181円(小数点以下四捨五入)、原告Eについては前記5の損害額の6割に相当する142万2053円(小数点以下四捨五入)が、弁護士費用を除く損害賠償額となる。また、本件事案の内容、審理の経過、認容額その他本件訴訟に現れた諸般の事情を考慮すると、弁護士費用は、原告Dについて5万円、原告Eについて10万円の限度で本件A取引及び本件B取引と相当因果関係のある損害であると判断するのが相当である。

(2) したがって、被告A、被告B及び被告Cは、連帯して、原告Dに対し、72万3181円及びこれに対する平成15年12月17日(本件A取引の終了によって原告Dの損失が確定した日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、原告Eに対し、152万2053円及びこれに対するこれに対する平成15年12月17日(本件B取引の終了によって原告Eの損失が確定した日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。 よって、原告らの請求は、主文の限度で理由があるからその限度でこれらを認容し、その余は理由がないからいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第34部
裁判長裁判官  藤 山 雅 行
裁判官  大須賀 綾 子
裁判官  筈 井 卓 矢
(別紙取引一覧表は省略)